第24課 食料自給率40%の経済大国日本
日本といえば、工業用の原料 ・燃料のほとんどすべてを輸入に頼り、それをもとにして作った自動車・電化製品・精密機械類・繊維製品などの工業製品を輸出している先進工業国で、 この加工貿易で世界第二位の経済大国になったということは誰でも知っている。
この資源に乏しい日本で、輸入が途絶えたことが原因となったパニックが、戦後だけでも二回起こっている。一つがトイレットペーパー買いだめ騒動だ。それは第一次石油危機の際に、メジャーと言われる国際石油資本が、日本向けの石油輸出価格を30%引き上げると通告したことから起こった。物不足への不安心理が、主婦たちを買いだめに走らせたのである。
次ぎに起こったのが、2004年2月の牛丼騒動である。それはBSE問題で、米国産牛肉の輸入禁止措置が採られたことに始まる。1日100万食とも言われる牛丼が店から消える日、牛丼を食べようと多くの人が深夜から行列を作り、店に殺到したのである。牛丼一つでこの騒ぎである。もし日本人の食卓から、まぐろが消えると言ったら、どんな騒ぎになったことか。しかし、これは笑い話では済まない話だ。なぜなら、日本の食料自給率は、試算を始めた1960年度の79%から年々下がる一方であり、2002年度にはカロリー換算で40%にまで落ち込んでいるからだ。
食料自給率が40%ということは、食料の6割を海外に依存していることを意味するが、穀物自給率は2000年時点で、世界175か国中の128番目、先進国が加盟する経済協力開発機構(OECD)30か国のうちでは29番目と、最低水準なのである。今後、自由貿易協定(FTA)の交渉が進展すれば、農産物の輸入が増え、自給率がさらに低下する恐れさえある。
日本には、「半導体やら自動車やらを売って、そのお金で海外から食料を買えばよい。」という意見もある。だが、お金さえあれば、いつでも食料が買えると思っているとしたら、それは大間違いである。生産国が冷夏や干ばつなど異常気象などで不作になったが最後、とたんに輸入が途絶えてしまうといった危険もあれば、地域紛争によって輸入がストップするような事態もあり得るのである。2030年に89億に達する世界人口の増加、砂漠化などによる農地の減少、地球温暖化に伴う水資源の枯渇など、食料危機はいつ始まってもおかしくない状況なのである。
こうした不測の事態に備えるのは国の義務であり、「食料安全保障」の観点からも、農業の保全と自給率の向上は、ぜひとも必要なのである。同じ島国であるイギリスは、1970年度の食料自給率は46%だったが、 小麦などの増産に励み、2000年度には74%にまで高めることに成功した。日本と同じ山がちな国土を有するスイスに至っては、憲法にまで小麦の自給率を明記する徹底ぶりであり、1970年には40%台だった食料自給率を、2000年には60%にまで回復させている。日本だけが今のままでいいわけがない。それなのに、日本では、今も毎年2、3万人が離農し、1%程度の農地が失われているのである。