第23課 日本社会と外国人労働者
現在、日本には約200万人の在日外国人が生活している。その内訳を見ると、オールド・カマーズ(old commers)と呼ばれる、戦前から滞在する人々とその家族が約60万人、ニュー・カマーズ(new commers)と言われる外国人が100万人、それに未登録の超過滞在、あるいはオーバー・ステイ(over stay)と呼ばれる人々が約30万人いると言われる。
オールド・カマーズと呼ばれるのは、日本の植民地支配と第二次大戦期に日本に出稼ぎに来たり、強制連行されて来た在日韓国・朝鮮人(約60万人)や在日中国人(約4万人)のことで、彼らはすでに3世、4世が主流であり、「帰化許可」を申請する韓国・朝鮮国籍者も毎年1万人前後いる。
ニュー・カマーズというのは、80年代に入って主としてアジアから流入した外国人労働者であり、80年代後半にはバブル景気と相まって、彼らの流入は増加の一途をたどった。このなかで増加が著しいのは、中国人と日系ブラジル人、次いでフィリピン人である。バブルが崩壊し、「失われた10年」と呼ばれる深刻な不況期を迎えたが、それにもかかわらず、90年代を通して在日外国人は50万人も増加している。というのは、日本人が嫌がる「3K労働」の多い中小零細企業で人手不足が深刻になり、外国人労働者のニーズが増大し続けたからである。
今日では、彼らの労働力抜きには人手不足倒産しかねない中小の製造業も多い。こうして外国人労働者が日本社会に不可欠な存在になるとともに、初期には短期滞在型が圧倒的であった外国人労働者は、家族を呼び寄せたり、日本人との結婚したりと、徐々に定住化の傾向を強めている。それに伴って、かつては専ら「外国人労働者」問題として語られてきた「在日外国人」問題であったが、今日では、医療、社会保障、教育、文化など、より幅の広い、生活に密着した社会問題となったのである。
その端的な例が、1989年以降急増し続ける国際結婚だろう。例えば1997年の国際結婚は2万8000件、1年間の結婚数全体の 3.6%を占めるまでになっている。その中で一番多いのが日本人男性とフィリピン人女性のカップルであるが、彼女たちが日本の暮らしに溶け込むことは容易なことではない。外国人のための相談センターには、言葉の悩みや生活習慣の違いからくる夫の両親との不和、或いは、「教会での礼拝はおろか、日本人として育てろと、自分の娘に母語であるタガログ語を教えることすら禁止され、悩んでいる。」といった内容の相談が、連日のように寄せられているという。敬虔なカトリック信者である彼女にしてみれば、自分の宗教を尊重してもらえないのは辛いことであろうし、母語を自分の子供に伝えられないのはもっと辛いことに違いない。国際化や異文化交流が叫ばれる裏側では、依然としてこうした事態が続いているのであり、日本社会には在日外国人が自分の民族の言語や文化を保持して生活する権利を否定するような、根強い同化主義が残っているのである。
日本は少子化と高齢人口の増加が急速に進んでおり、「人口減少社会」の到来が目前に迫っている。そうなると、好むと好まざるにかかわらず、日本社会はより多くの外国人労働力を必要とするようになる。しかし、日本社会にはアジア蔑視の「脱亜入欧」論が染みついた精神風土があり、果たして「多民族・多文化共生社会」への移行がスムーズに行くのか、心配せずにはいられない。なぜなら、昨今、欧米で激化しているような外国人労働者排斥運動が、日本でも起こらないとも限らないからである。
日本は、かつてアメリカや中南米に多くの移民を送り出した国であり、それらの地域には、今も多くの日系人が住んでいる。今度は回り回って、日本が海外移民を受け入れる番が来たのである。21世紀の日本は労働開国と他民族国家への移行を避けて通ることはできない。日本人の一人一人が、この現実と向き合うべき時ではなかろうか。