第22課 変わりつつある日本人の労働観
「働き蜂」とか「会社人間」とか言われ、「カロウシ(過労死)」という世界語まで作り出した日本のサラリーマンであるが、どうやらここにきて大きな変貌を遂げつつあるようだ。それを表すのが下のグラフである。
50代では「仕事重視、どちらかと言えば仕事重視」が65%を越えるのに対し、世代が下がるにしたがってその比率は低下し、20代以下では「仕事重視、どちらかと言えば仕事重視」は36%に落ち込み、「生活重視、どちらかと言えば生活重視」が63%と多数派になっている。
個人の働き方は、これまで終身雇用制や年功賃金などの雇用慣行の影響を受けてきた。その典型が、終身雇用制の下で身も心も会社に捧げて働いてきた「会社人間」の夫と、それを支える専業主婦の妻であった。だが、明らかにこのような働き方は変化しつつある。 終身雇用制が崩れ、40歳過ぎればリストラの対象とも言われる現代の会社にあって、若者の中では一つの会社で長期間勤務して昇進を目指してがんばるという働き方は少数派であり、出世や昇進よりも自分の趣味や家庭生活を大切にし、より拘束性の弱い働き方を志向する者が増えているのである。
その一つに、大学を卒業しても定職に就かず、短期間のアルバイトなどをして過ごす若者、いわゆる「フリーター」問題がある。先日もNHKが「フリーター417万人の衝撃」という特集(2004.02.07)を組んで報道したが、その数字は驚くことばかりだった。「フリーターの数はここ10年で2倍になり、今や労働人口の5人に1人がフリーターである。フリーターの生涯賃金は正社員の4分の1、平均納税額は正社員の5分の1であり、フリーターがこのペースで増えれば、2010年には経済成長率を1.9%押し下げるという試算もある。」というのだ。
かつてフリーターといえば、以前は会社にも時間にも拘束されず、気ままに過ごしている若者のイメージがあった。しかし、一口にフリーターと言っても、理由別に分類すると「モラトリアム型」(やりたい職業がみつかるまでの猶予期間として選択した者)が46.9%、「やむを得ず型」(正規採用になれなかったり、倒産やリストラで失職したりして、しかたなくフリーターをしている者)が39.4%、「夢追求型」(何か明確な目標を持った上で、生活の糧を得んがために、自由に時間が使えるフリーター生活を選んでいる者)が13.7%と、実に様々である。(日本労働研究機構「大都市の若者の就業行動と意識」より)。しかし、NHKが更に聞き取り調査を進めてわかったのは、「夢追求型」はさておき、「やむを得ず型」はもとより、「モラトリアム型」のほとんどが、不況のあおりを受けて、「正社員」としての就職の機会が狭められたために、正社員になりたくてもなれず、諦めてフリーターになっているという現実であった。現在のフリーターは、バブル期の気楽なフリーターとは全く性格を異にしているのである。こうなると、もはやフリーター問題を世代論や「若者のライフスタイル」論としてだけでは語れない。日本の若者の実に三分の一が、こうした非自発的なフリーターという境遇に置かれているという現状を考えないわけにはいかないのである。