【財務会計】【転載】為替リスク回避のための為替予約と会計処理

目次

1.はじめに

近年のグローバル化の流れによって、貿易などの国際取引は日に日に多くなっています。
それらの取引が外国通貨で行われる場合、そこには為替リスクが潜んでいます。
最近の為替相場は変動が激しくなっていますので、リスクは増大傾向にあります。

例えば輸入取引で、外国の会社からある商品を100米ドルで購入する契約を締結したとします。
契約日の為替相場が1ドル=100円だとした場合、購入金額は100ドル×100円=10,000円の見込みとなります。
ところが、実際の支払日の為替相場が1ドル=120円になれば、購入金額は100ドル×120円=12,000円となり、差額の2000円分利益は減少してしまいます。
それでは、そのようなリスクを回避(ヘッジ)するにはどのような方法があるでしょうか。

2.為替リスクのヘッジ方法

ヘッジとは「回避する」という意味で、為替リスクヘッジとは、外貨建取引に伴う為替リスクを回避する行為のことをいいます。
その手段としては為替予約、通貨オプション、通貨スワップの三つがよく知られています。
ここでは最もよく用いられている為替予約というヘッジ手段に焦点を当てていきたいと思います。

為替予約とは、銀行との間で、将来の決まった期日に、ある通貨を、決まった値段で売るまたは買う約束をする取引をいいます。
国外にある会社との間で、ある商品を100ドルで購入し、購入30日後に代金を支払う契約を締結するとします。
契約締結と同時に銀行との間で、30日後に100ドルを、1ドル=100円で購入する契約をした場合、支払日の為替相場が1ドル=120円だったとしても、銀行から外貨を1ドル=100円で購入することが出来ますから、支払額は100ドル×100円=10,000円となり、契約締結時の為替相場をもとに見込んだ利益を確保することができます。

なお、為替予約サービスの利用については事前の審査が必要となりますので、あらかじめ取引銀行に相談するとよいでしょう。

3.予約レートの決まり方

予約レートの決まり方

(1)直物レートと先物レート

為替レートは大きく直物レートと先物レートに分かれます。
直物レートとは、取引日から2営業日後に通貨の受け渡しが行われる為替レート(スポット・レート)をいい、先物レート(予約レートまたはフォワード・レート)とは、2営業日よりも後に(例えば30日後に)通貨の受け渡しが行われる為替レートをいいます。

(2)先物レート(予約レート)の決まり方

先物レート(予約レートともいいます。)は直物レートと2通貨間の金利差によって決まります。
「円金利での運用」と「為替予約付きの外貨金利での運用」の損益が等しくなるように決まるという考え方です。
「為替予約付きの外貨金利での運用」とは、外貨金利での運用による損益を、予約レートをもって円換算した時の金額のことです。

ここで、予約レートの決まり方を見てみましょう。
例えば、現在の為替相場が1ドル=100円であり、円の金利が1%、ドルの金利が2%の場合、一年後の「円金利での運用」は101円、一年後の「外貨金利での運用」は1.02ドルとなります。
そして「外貨金利での運用」が「円金利での運用」と等しくなる約99円が予約レートとなります。

より具体的な事例で説明しますと、まず、取引コスト(買値と売値の差額)のない仮想の世界を想定してください。

この世界で、為替ディーラーが、顧客から、1年後の1ドルの買いの対円先物レートを提示してほしいと要望された場合、どのようにするでしょうか。

ここで、円の調達とドルの運用は自由にできるとして、円の1年間の調達コストは1%、ドルでの1年間の運用利率は2%とします。

上記の為替ディーラーは、1年後に1ドルを渡す必要がありますので、ドルを調達しなければいけません。
しかし、為替ディーラーにお金がないとすると、100円を借りて今直物(スポット)(1ドル=100円)で1ドルを買い、これを1年間2%で運用した上で、1年後にそのうち1ドルを顧客に渡すことが考えられます。

その場合に、為替ディーラーの損益分岐点は、1年後に円の調達に要する101円を支払えるかどうかです。
したがって、為替ディーラーは、運用して手にした1.02ドルを101円に交換できれば、損益なし(プラスマイナスゼロ)ということになります。
その際の交換レートが、101円÷1.02ドル=99円となります。

もちろん、為替ディーラーはこれより有利な100円を提示することもできなくはありません。
しかし、ライバルが100人いたらどうでしょう。
顧客はショッピング(為替ディーラーを見て回り、比較検討すること)ができます。
その結果、レートは理論的な限界値の99円に接近します。

これは、いわゆる「裁定価格理論」(Arbitrage Pricing Theory)と呼ばれるもので、複数の為替ディーラー間で、提示する交換レートに差が生じても、いずれ理論的な限界値に収束することがお分かりいただけると思います。

ただし、実際に為替予約を行うときには、銀行等へ支払う手数料が加味されるため、厳密には上記の計算とは異なる予約レートとなります。

4.為替予約のメリット、デメリット

為替予約をすると、その後の為替相場の影響を受けることがなくなり、当初見込んだ商品の売買利益をそのまま確保できることが最大のメリットです。

もちろん、為替相場が反対に動く場合もあります。
上記の例において、1ドル=100円で為替予約をしていた場合、支払日の為替相場が1ドル=80円だとしたら、支払金額は100ドル×80円=8,000円でよいのに、為替予約をしているために100ドル×100円=10,000円支払わなければなりません。
これは一見デメリットのようですが、そもそも購入金額が10,000円であればもともと見込んでいた利益は確保出来るわけですから、大きな問題とはなりません。

将来の為替相場を予測し、為替差益をあげ続けることは困難です。
為替リスクをヘッジしない場合は、為替で利益が出ることもあれば損失が出ることもあり、損失の場合はその取引自体が赤字に陥ってしまうことがあります。
しかし、為替リスクをヘッジしていれば、実際の支払日の為替相場より高い金額で払うことになろうとも、赤字に陥ることはありません。
また、企業にとっては将来の為替の価格変動を避け、現時点で利益を確定させることができるというのもメリットの一つです。

また、デメリットとして、為替予約を締結すると、原則としてキャンセルすることはできません。
しかしながら、予約の実行を期間渡し、つまり一か月程度の期間内に実行すればよい契約とすれば、着金や送金が数日ずれる場合にも対応できます。

5. 会計処理

会計処理

(1)為替レートの種類

為替レートには、TTS、TTB、TTMの3つのレートが存在します。
TTSとは、Telegraphic Transfer Sellingの略で、電信売相場を意味します。
「売」とは銀行が顧客に外貨を売ることを指しますので、企業から見れば買うとき、つまり輸入取引の代金の支払い時、銀行から外貨を買って送金する時に適用されるレートです。

他方、企業が輸出取引を行い、外国通貨で受け取った代金を円転するときのレートはTTBといいます。
TTBはTelegraphic Transfer Buyingの略で、電信買相場を意味します。
「買」とは銀行が顧客から外貨を買うことを指しますので、企業から見て売取引、つまり輸出取引に適用されるレートです。

また、TTSとTTBのちょうど中間をTTMといいます。
TTMはTelegraphic Transfer Middleの略で仲値(なかね)を意味します。
実際には、銀行が顧客と外国為替取引をする際に基準とするレートがTTMであり、これに銀行の手数料を加味したものがTTS、TTBレートとなります。米ドルの場合、多くの銀行では手数料は1ドルにつき1円としているため、TTMが1ドル=100円のとき、TTSは1ドル=101円、TTBは1ドル=99円となります。

(2)外貨建取引の円換算方法

外貨建取引を行った場合、外貨建の売上や仕入は円換算して帳簿に記録することとなります。
ここでは税務上の換算方法について述べますが、P/L項目(売上高、仕入高等)につきましては、会計上は必ずしも税務に合わせる必要はなく、社内ルールにより換算することが可能です。
ただし、期末に残高として残るB/S項目(売掛金・買掛金など)の換算については、税務上に合わせる必要があります((3)参照)。

外貨建取引は原則として、取引発生時の為替レート(TTM)により円換算すべきものとされています。
なお、取引日に為替相場がない場合には、同日前の最も近い日の為替相場によります。

また、為替レートは、原則として、その企業の主たる取引金融機関の対顧客直物レートを使用することとしますが、他に合理的な方法で入手したレートがある場合には、継続適用を要件としてそのレートを使用することができます。

これをもう少し詳しく述べると、次の①から④までのとおりです。これらは税務上の取扱いに従ったものです。

①取引発生時の為替レート

取引発生時の為替レートは、原則としてその取引を行った日の為替相場のレートをいいますが、そのレートに代えて、一月以内の一定期間の平均レートや取引が発生した日の直近の一定の日における直物レートによる換算も可能です。

(具体例)

  • 取引の行われた前週の平均レート
  • 取引の行われた前月の平均レート
  • 取引の行われた前週末日のレート
  • 取引の行われた前月末日のレート
  • 取引の行われた当週初日のレート
  • 取引の行われた当月初日のレート

②換算する為替レートの種類

外貨建取引の計上は原則として取引発生時の仲値(TTM)で換算しますが、継続適用を条件として、売上や収益または資産についてはTTB、仕入や費用または負債についてはTTSにより換算することができます。

③前受金、前渡金がある場合

前受金または前渡金については、金銭授受時の為替レートにより円換算を行います。
また、取引発生時には、前受金または前渡金を充当する部分については、前受金または前渡金授受時のレートで円換算した金額をもって売上高または仕入高を計上することができます。
言い換えると、まず売上高または仕入高などの取引の全額を取引発生時のレートで円換算し、次に前受金または前渡金の換算レートと取引発生時の換算レートとの差額を為替差損益で調整する、という方法をとらなくてよいこととされています。

(仕訳例)

商品代100ドルのうち50ドルを前金で送金し、送金時のレートは1ドル=80円、船積時(取引発生時)のレートは1ドル=100円だった場合。

④為替予約を締結した場合

取引発生時に為替予約を締結していた場合、取引発生時のレートに代えて予約レートで円換算することができます。
ただし、取引発生後に為替予約を締結した場合は処理方法が変わりますので注意が必要です。

(3)期末の処理

外貨建取引によって生じた外貨建の売掛金または買掛金を期末に有している場合、その外貨建の売掛金または買掛金は決算日レートにより換算し、差額は為替差損益として計上します。

為替予約を締結した場合においても、売掛金または買掛金は決算日レートにより換算します。
この場合、為替予約も時価評価となり、決算日レートにより換算します。
つまり、ヘッジ対象である売掛金または買掛金の為替差損益と、ヘッジ手段である為替予約の為替予約評価損益とは、損益計算上で相殺されるイメージです。

なお、これらの処理は独立処理と呼ばれるもので、一定の要件を満たせば振当処理やヘッジ会計(繰延ヘッジ)と呼ばれる処理方法で計上することができます。
いわゆる振当処理やヘッジ会計を取り入れると、ヘッジ対象(売掛金または買掛金)とヘッジ手段(為替予約)をより一層同一の会計期間で認識することができます。

税務上は、短期の売掛金または買掛金であれば期末時換算法で換算するのが原則ですが、「外貨建資産等の期末換算方法等の届出書」を提出することにより、発生時換算法を選択することもできます。
また、長期の売掛金または買掛金の場合は原則が発生時換算法となり、届出をすることで期末時換算法を選択することができます。

なお、会計上と税務上の処理方法が異なる場合は、申告時に調整することとなりますので、注意が必要です。

6.おわりに

以上、為替リスク回避のための為替予約の仕組みと外貨建取引を行った場合の会計処理について述べてきました。
国際取引は今後もグローバル化の流れの中で増えていくことが予想されます。
そして国際取引はどうしても外貨建で行われることが多いです。
したがって、会社は為替リスクを回避するためにも、為替予約などのヘッジ手段を講じることが必要となってきます。

そして、ヘッジ手段を活用したときには、各ヘッジ手段に即した適切な会計・税務処理が必要となります。
その際には、国際取引や国際税務に詳しい税理士に相談することをお勧めします。

posted @ 2021-11-02 18:12  Park_SAP  阅读(377)  评论(0编辑  收藏  举报